Column
2024年11月18日
コモドドラゴン(コモドオオトカゲ)の生態についての研究が進み、最近になってわかってきたことがかなりありますので少しご紹介したいと思います。
まず、世界最大のトカゲであるコモドドラゴンが、オーストラリアで進化した巨大なトカゲの生き残りであり、更新世(約1万年前)に絶滅した多くの巨大動物の特徴と酷似している、つまり恐竜の生き残りだという証拠が次々発見されているというのです。
生物学における一般的な進化の形態としては、伝統的にコモドオオトカゲが大きくなったのは、いわゆる「島しょ化」(小型動物が、捕食や他種との競争が減少することにより、大陸の近種と比べて巨大化すること)という生物学的現象の一例だと思われていましたが、コモド島(個体数約1000頭)だけでなく、リンチャ島(約1000頭)、デサミ島(100頭)、ギリモタン島(100頭)などの小さな島々、さらにフローレス島西部(最大2000頭)にも生息するなど、巨大化の根拠として矛盾すると指摘されています。
なお、コモドドラゴンは絶景で有名なパダール島にも生息していましたが、頂点捕食者(天敵を持たない肉食動物)であるがゆえに獲物が皆無となって最近絶滅しています。
また、「生物地理学の父」と呼ばれるウォレスが発見した動物分布によって、ロンボク海峡の東側では、有袋類の哺乳類やオウムなどのオーストラリア由来の動物が多くを占める(ウォレス線)ことから、東側にあるコモド諸島のコモドドラゴンもオーストラリアと同系だとする説もあります。
コモドドラゴンは、5月から8月ごろ交尾し、9月に産卵します。この時期には大きな塚を見ることができますが、これがつがいの巣穴です。爬虫類では非常に珍しく一夫一妻制を形成しているとされています。
エサの少ない島々では、時として共食いが行われるので、若い個体は生命を守るために木の上で生活します。また、コモドドラゴンは単為生殖することが知られていますが、これはオスがいなくなったとしても、メスが有精卵を産み、子がオスとなれば両性が揃い、絶滅を回避できるという進化形態だと考えられています。
コモドドラゴンが人間を襲うというのは、最近では食べられた例がないのでわかりませんが、もっとも危険なのは警戒心が強い若い個体やメスだとされています。2024年にもシンガポール人観光客が太ももを引っかかれて重傷を負っていますが、その際もレンジャーと行動をともにしていなかったことが原因であり、いかにレンジャーが重要かということを物語っています。
また、面白いことに、樹上で生活するコモドドラゴンの幼体は昆虫を食べて大きくなることが分かっており、成体になるにつれて哺乳類を食べるようになるという、食性が変化することが興味深いです。
さて、コモドドラゴンが肉食恐竜の生き残りなのではないかと考えられるもう1つの理由が、その歯にあります。
2024年になってわかった事実では、コモドドラゴンの歯は約40日で新しい歯に生え変わり、鉄でコーティングされていたことがわかりました。また、ティラノサウルスなどの恐竜にしか見られない“ジフォドント歯”と呼ばれる鋸歯状の歯を持つ唯一の陸生脊椎動物であることも指摘されています。この鋭い剣のような歯によって、大型動物の獲物でも捕らえたら逃さず、分厚い肉でも切り裂くことができるんですね。
なお、コモドドラゴンの歯の生え変わりのスピードはほかのオオトカゲ科の種とは大きく異なる部分で、まったく異なる進化を遂げ、こういった特異な捕食戦略を身につけていったことがわかっています。
まだ研究はスタートラインに立ったばかりですが、はっきりしていることは、コモドドラゴンが現生の動物としては非常に稀有な存在であることは確かです。絶滅危惧種であるのにあまり研究対象にしてしまうのはどうかと思いますが、このように“真の意味での希少種”なんだということを知ったうえでコモド観光をされると、またひと味違って見えるのではないでしょうか。