2020年7月8日
25年越しの世界遺産登録
2019年7月アゼルバイジャンで行われたユネスコ世界遺産委員会で、バガン遺跡が世界遺産に登録を果たしました。
前回登録を目指し申請してから実に25年越しという四半世紀を経た登録となりました。
ではなぜそれだけ時間がかかったのかと言いますと、最初に登録を目指した軍事政権は、遺跡保護という観点に欠けた観光地化を進め
、ゴルフ場やビューイングタワーを建設、遺跡が集中するオールドバガンには高級リゾートホテルを次々と建てました。
これによって景観を損ねたと判断されます。
また1985年に起きたバガン地震の際に倒れたパゴダや寺院をセメントなど近代的な建材によって補修したために原状回復に努めていないとみなされたのでした。
2度目の地震で原状回復
ミャンマーは民主化へと移行し、政府も再度世界遺産を目指しますが、そんな折奇しくもバガンを地震が襲います。
2016年に起きた地震によって1985年に過度に修復された建造物のセメント部分の多くが倒壊したのです。
これを文化省とユネスコは好機と捉え、再修復の際に尖塔部などを過去にさかのぼって確認できない箇所は新たに付けることを禁じました。
このため現在では少なくとも1980年以前に見られたパゴダの状態に近い形に戻されています。
ただ、ゴルフ場やビューイングタワーはそのままの状態で利用が続き、オールドバガンの各ホテルについてはユネスコが早期の移転が望ましいと“条件付き”として登録を認めたぐらいで、
今後移転問題がどうなるのか注目されます。
世界遺産でない“スーパー遺跡”
2019年に世界遺産の仲間入りをする前は、「世界遺産に登録されていないすごい遺跡」というプレミアム価値があって、その稀少性が観光客を呼びました。
現地のサラトラベルからしますと、逆にそのネームバリューの方が人をそそるものがあったと思います。
今は他の“あまたある”世界遺産の中でいかに独自性を発揮するかが求められているのかもしれません。
バガンは遺産ではない
バガンは「世界三大仏教遺跡」のひとつとして知られていますが、バガン遺跡だけがすべての建築物が現役の信仰対象です。
つまり過去の遺物ではなく、バガン王朝時代から連綿と信仰が続いてきて、いまに至ります。
バガン自体は王朝が滅んでから田舎の農村に落ちぶれ、荒れ果ててしまいますが、シュエジーゴンパゴダやアーナンダ寺院など主要な寺院はその後も各王朝が定期的に修復、寄進を繰り返したために
保存状態はよく、継続して信仰されてきました。
それがバガンを難しくしているとも言え、2016年の地震の際にも、地元住民は仏教的見地からして尖塔を修復すべきだという意見が多く、文化省は世界遺産を目指すためにこれを認めず、大手ホテルはどうでもいいけどホテル運営には口を出させないという、
様々な利害関係が存在しました。
サステーナブルツーリズムに向けて
昨今観光業界の中で頻繁に聞かれる言葉に「サステイナブル・ツーリズム」というものがありますが、
これはつまり、持続可能な観光資源の保全およびそれに基づいた観光利用ということです。
バガン遺跡は幸いにも観光地化が進まず世界に開放されるようになったために、素朴で懐かしい風景と人々があり、そこに3000基もの仏塔群がにょきにょきと林立するというミスマッチさが
売りで、多くの人々を魅了するわけです。
今後世界のツーリズムの見本となり得るバガン遺跡ですが、真の意味で持続可能な観光地となれるようこころから願ってやみません。
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